クルマの燃料計が半分を指したとき、すぐに給油スタンドへ向かうべきでしょうか。それとも、車体を軽くして燃費を稼ぐために、ギリギリまで粘るべきでしょうか。
「満タンにすると重くなって燃費が悪くなる」という説は、長年ドライバーの間で議論されてきました。ガソリンにも重量がある以上、物理的には間違いではありません。しかし、その効果を具体的に数字で計算すると、驚くべき事実が見えてきます。
今回は、ガソリンの給油量による燃費の差と、行政が公式に推奨している給油方法について、具体的な数字とリスク管理の観点から解説します。
ガソリンの重さは1リットル約0.75キロ
まずは「重さ」の事実確認です。 石油連盟やJIS規格(日本産業規格)のデータによると、ガソリンの密度(比重)は0.72〜0.76g/cm³程度とされています。計算を単純化するために、1リットルあたり約0.75kgとして計算します。
一般的なコンパクトカーやセダンの燃料タンク容量である「50リットル」を例にします。
- 満タン(50リットル)の場合 50L × 0.75kg = 37.5kg
- 半分(25リットル)の場合 25L × 0.75kg = 18.75kg
満タンと半分の重量差は、わずか18.75kgです。 これは、小学校低学年の子供一人分、あるいは少し多めの買い物袋数個分に過ぎません。この重量差が、どれほど燃費に影響するのでしょうか。
燃費への影響は「誤差」の範囲内
省エネルギーセンターの公式データを確認します。 「エコドライブ10のすすめ」によると、「100kgの不要な荷物を載せて走ると、3%程度燃費が悪化する」とされています。
このデータを元に、先ほどの18.75kg(約19kg)の重量差を当てはめて計算します。 19kgは100kgの約5分の1です。つまり、燃費への影響も3%の5分の1、約0.6%となります。
【具体的なコスト試算】
- 燃費15km/Lの車で、年間10,000km走行する場合
- ガソリン価格を170円/Lと仮定
通常走行にかかるガソリン代は、約11万3,333円です。 常にガソリンを半分以下にして軽量化し、燃費を0.6%改善できたとします。 その節約額は、年間で約680円です。
1ヶ月あたりに換算すると、約56円の節約にしかなりません。 このわずかな金額のために、給油回数を倍に増やし、ガソリンスタンドへ行く時間と手間をかけるメリットは存在するのでしょうか。数字で見ると、経済的な合理性は極めて低いことがわかります。
暫定税率廃止となった現在、その額はさらに低くなっています。
半分給油には「故障リスク」がある
経済的なメリットが薄い一方で、機械的なデメリットは明確に存在します。
1. 燃料ポンプの故障リスク 現在の自動車の多くは、燃料タンクの中に燃料をエンジンへ送る「燃料ポンプ」が内蔵されています。このポンプは作動中に熱を持ちますが、周囲にあるガソリンそのものが冷却材の役割を果たしています。 常にガソリンが少ない状態で走行を続けると、ポンプが十分に冷却されず、熱による劣化や故障を招く可能性があります。部品交換となれば、数万円以上の修理費がかかり、節約したガソリン代など一瞬で消え去ります。
2. 結露によるサビの発生 タンク内のガソリンが少ないということは、それだけ「空気」が多く入っている状態です。外気温が変化するとタンク内の水分が結露し、水滴となって溜まります。 最近の樹脂製タンクではサビの心配は減りましたが、金属製の配管やポンプには依然として悪影響を及ぼします。水はガソリンより重いためタンクの底に溜まり、エンジンの不調原因となることもあります。
内閣府・国土交通省は「満タン」を推奨
経済性や機械の保護以上に重要なのが、「災害への備え」です。 内閣府、資源エネルギー庁、国土交通省は連携して、「満タン&灯油プラス1缶運動」を展開しています。
この運動の指針は明確です。 「車の燃料メーターが半分程度になったら、満タンにする」
災害大国である日本において、クルマは単なる移動手段ではありません。避難場所であり、情報収集の拠点であり、電源供給源でもあります。
【災害時の現実】
- ガソリンスタンドの機能停止: 停電により給油ポンプが動かなくなる、あるいは売り切れで営業停止になります。
- 大渋滞の発生: 避難しようとしても道路が大渋滞し、その最中にガス欠になる車両が続出します。東日本大震災や熊本地震でも、給油待ちの車列が救急車両の妨げとなる事例が多発しました。
満タンなら「48時間」生存できる
資源エネルギー庁の検証データによると、満タン(約50〜55リットル)の状態でエアコンを使用しながらアイドリングを続けた場合、車種にもよりますが約48時間(丸2日間)稼働できるとされています。
真夏や真冬の災害時、エアコンが使えるかどうかは生死に関わります。 特に高齢者や乳幼児がいる家庭では、冷暖房が効く車内は貴重な避難シェルターとなります。スマートフォンの充電やラジオでの情報収集も可能です。
ガソリンを半分しか入れないという行為は、この「命を守る48時間」を自ら半分に削っていることと同義です。
結論は、迷わず満タン、です
検証の結果、以下の事実が明らかになりました。
- 軽量化のメリットは皆無: 半分給油による節約効果は月50円程度。
- 車両へのダメージ: 燃料ポンプの過熱や結露リスクが高まる。
- 災害リスク: いざという時の生存期間が半減する。
「燃費のために軽くする」という昭和時代の常識は、現代の燃費性能と災害リスクの前では通用しません。 ガソリンスタンドに行く手間を減らし、愛車の故障を防ぎ、万が一の災害時に自分と家族の命を守る。 そのためのコストは、重量増による年間数百円の出費だけです。
燃料計の針が半分を指したら、そこが「エンプティ(空)」だと認識してください。 常に満タンを維持することこそが、最も賢く、最も安全なカーライフの基本です。
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