松尾芭蕉の「おくのほそ道」が、昔から好きでした。江戸の深川を舟で出発し、千住から奥州へ向かう壮大な旅。その道のりを思えば、すぐ隣の川口市にも立ち寄ったはず。そう信じて、芭蕉の足跡を車で探してみました。
しかし、意外な事実が判明します。「おくのほそ道」の本文に、川口の名はどこにも出てこないのです。がっかりしかけたその時、一つの情報を見つけました。東川口駅の近くにある「本行寺」に、芭蕉の句碑があるというのです。これが唯一の手がかり。歴史の謎を解くため、ハンドルを握りました。

伝説の入り口、「もみぢ寺」へ
本行寺は、通称「もみぢ寺」として親しまれています。首都高速の新井宿ICから車で約6分と、アクセスは抜群です。お寺に着くと、無料の駐車場が迎えてくれました。
入り口の看板には、かわいらしい芭蕉のイラストと共に「松尾芭蕉が句を詠んだお寺」と書かれています。これを見れば、誰もが伝説を信じるでしょう。期待は一気に高まります。境内は静かで、心が落ち着く空間でした。11月に訪れたため紅葉の盛りではありませんでしたが、地面に落ちた葉が秋の訪れを告げていました。

300年の時を超えた真実
本堂の近くに、目当ての句が書かれた木札がありました。
「尊かるなみたや染めて散る紅葉」
(とうとがる なみだやそめて ちるもみじ)
なんて素晴らしい句でしょう。本行寺の伝承によれば、芭蕉は「おくのほそ道」の旅の途中、元禄二年(1689年)にこの寺の紅葉を見て、この句を詠んだとされています。
しかし、複数の資料を調べると、驚きの事実が浮かび上がりました。この句が詠まれたのは、旅から2年後の元禄四年(1691年)。場所も川口ではなく、近江国(現在の滋賀県)の明照寺というお寺だったのです。
実はこの句、旅の風景を詠んだものではありません。お世話になったお寺の住職へ、感謝を伝えるために詠んだ「挨拶句」でした。芭蕉が実際に通った道は、川口市の東側を走る日光街道です。わざわざ脇道に入り、川口に立ち寄った記録は見つかりませんでした。
つまり、残念ながら、芭蕉はこのお寺に来ていなかったのです。

伝説を超えた、お寺の魅力
では、がっかりしたのでしょうか?答えは全く逆です。むしろ、この場所がもっと好きになりました。
芭蕉が来たという事実はなくとも、このお寺には素晴らしい紅葉があった。そして、芭蕉の有名な句と結びつけたいと願った地元の人々の想いがあった。その歴史の物語こそが、このお寺を特別な場所にしているのです。
境内には、戦後に皇族の方が植樹されたという立派な紅葉の木もあります。静かな本堂の前で手を合わせれば、日々の喧騒を忘れられます。おみくじを引いて、旅の運勢を占うのも楽しいひとときでした。
芭蕉は来なかったかもしれません。しかし、その伝説のおかげで、私たちはこの静かで素敵なお寺に出会うことができました。歴史の謎解きは、最高のドライブのスパイスになったのです。

ドライブ諸元 (アクセス&施設情報)
| 項目 | 詳細 |
| スポット名称 | 日蓮宗 正立山 本行寺 (通称: もみぢ寺) |
| カテゴリ | 文化施設 (寺院) |
| 所在地 | 〒333-0811 埼玉県川口市戸塚4-1-3 |
| 電話番号 | 048-296-3444 (参拝に関する問い合わせは 090-7721-7210) |
| アクセス目安 | 首都高速川口線「新井宿IC」から車で約6分 |
| 拝観時間 | 境内は常時開放(ご首題受付は日曜15:00-16:00など要事前連絡) |
| 定休日 | なし |
| 入場料・利用料 | 無料 |
| トイレ | あり (境内に1か所) |
| 公式サイト | https://hongyoji-kawaguchi.net/ |
| 専用駐車場 | あり |
| 駐車台数 | 公式発表25台 (ただし、本堂前の主要駐車場は約11台) |
| 駐車料金 | 無料 |
| 駐車場利用時間 | 拝観時間に準ずる |


あなたとクルマ編集部のワンポイント
- 混雑情報: 本堂前の主要な駐車場は約11台分です。週末などは混み合う可能性もあるため、午前中の訪問が比較的スムーズです。
- 道路状況: 周辺は住宅街の生活道路です。道幅が狭くなる箇所もあるため、歩行者に注意して安全運転を心がけてください。
- その他: 芭蕉の句碑は本堂に向かって右手にあります。静かにお参りしましょう。





