パキスタンやスリランカの中古車市場で、日本の軽自動車ダイハツ・ミライースが人気ランキング上位を占めている。なぜ、この小さな車が海を越えて支持されるのか。その理由は、現地の経済状況や税制、そして日本特有の環境で鍛え上げられた車両の特性にあった。
パキスタン:品質が国産車を凌駕する
パキスタンの自動車市場は、高いインフレと高騰する燃料価格(平均0.94米ドル/L)に直面しており、消費者は経済的な車を強く求めている。この状況で、ミライースは中古輸入車人気ランキングの第4位に位置している。
主な競合相手は、国内で組み立てられるスズキ・アルトだ。しかし、多くの消費者にとって、たとえ新車であっても、中古の日本製ミライースの方が魅力的に映る。YouTubeなどのレビューでは、ミライースはアルトよりも「洗練されていて快適」と、その製造品質や装備が高く評価されている 。対照的に、国産アルトは高い価格にもかかわらず、基本的な装備や製造品質が批判されることがある 。
価格面でもミライースは優位に立つ。パキスタン国内で組み立てられたアルトの新車価格が233万~304万パキスタン・ルピー(PKR)であるのに対し、3~5年落ちのミライースは200万~250万PKRで取引されており、品質と価格のバランスで消費者の心を掴んでいる 。
表1:比較分析 – 輸入ミライース vs. パキスタン国産スズキ・アルト
| 項目 | ダイハツ・ミライース (中古輸入車, 3~5年落ち) | スズキ・アルト (新車, パキスタン組立) |
| 車両の出自 | 日本からの輸入 | パキスタン国内組立 |
| 典型的な取得コスト | 中古車価格 (200万~250万PKR) | 新車価格 (233万~304万PKR) |
| 認識されている製造品質 | 高い、信頼性があると評価 | 低い、基本的な造りと評価 |
| 標準装備 | エアバッグ、ABS、パワーウィンドウ等が充実 | グレードにより異なり、基本的な装備が多い |
| エンジン/性能 | 658cc、CVTによる滑らかな走行 | 658cc、マニュアル/AGS、AGSの変速に不満の声あり |
| 燃費 | 非常に良好 (20~23km/Lの実燃費報告) | 良好だが、運転方法による差が大きい |
| 消費者センチメント | 「アルトより洗練されている」という肯定的な評価 | 「価格の割に品質が低い」という批判的な意見 |
スリランカ:税制が選択肢を絞る
スリランカでは、ミライースの人気は消費者の嗜好というより、規制上の必要性によって牽引されている。市場を決定づけているのは、エンジン排気量に基づく懲罰的な輸入税制だ。
この税制では、1000cc未満の車両に150%の物品税が課されるのに対し、1000ccから1500ccの車両には160%、それ以上にはさらに高い税率が適用される 。その結果、658ccのエンジンを搭載するミライースは、数少ない手頃な価格の選択肢として浮上する。例えば、1800ccのトヨタ・プリウスは、各種税金が上乗せされることで、最終的な価格が日本円で560万円以上に達することもある 。
さらに、3年から5年という厳しい車齢制限が設けられており、比較的新しいモデルの中古車であるミライースに需要が集中する要因となっている 。事実上、国の税制が消費者を軽自動車の購入へと誘導しているのである。
製品の強み:日本の制約が生んだ価値
ミライースが海外で評価される根源は、日本の軽自動車市場という特殊な環境で培われた、その卓越した経済性と実用性にある。
ダイハツ独自の「e:Sテクノロジー」は、軽量ボディ、高効率エンジン、空力性能の最適化を統合したもので、2WDモデルのWLTCモード燃費は25.0km/Lという優れた数値を実現している。実燃費も22~23km/L前後と報告されており、燃料費が高い新興市場において大きな魅力となる 。
全長3395mm、全幅1475mm、最小回転半径4.4mというコンパクトなサイズは、交通渋滞が深刻なパキスタンやスリランカの都市部での取り回しに非常に優れている 。
表2:ダイハツ・ミライース – 主要技術仕様と経済性
| 項目 | 仕様 |
| エンジン | |
| 型式 | KF型(水冷直列3気筒DOHC12バルブ) |
| 総排気量 | 658cc |
| 最高出力 | 36kW(49ps)/6800rpm |
| 最大トルク | 57N·m(5.8kg·m)/5200rpm |
| 寸法・重量 | |
| 全長 / 全幅 / 全高 | 3395mm / 1475mm / 1500mm |
| 車両重量 | 650kg ~ 740kg |
| 性能 | |
| 駆動方式 | FF / 4WD |
| トランスミッション | CVT(無段変速車) |
| 燃費 (WLTCモード) | 25.0km/L (2WD) / 23.2km/L (4WD) |
| 燃料タンク容量 | 28L |
| 経済性(日本中古市場) | |
| 3~5年落ちモデルの参考価格帯 | 50万~80万円 |
また、シンプルな自然吸気エンジンとCVTという機械構造は、マイルドハイブリッドなどの複雑なシステムを搭載する競合車に比べ、整備網が未発達な市場でも修理が容易で安価という利点がある。ただし、ウォーターポンプからの水漏れ(修理費約2万円)やEGRバルブの不具合(同3万円)といった、いくつかの弱点も報告されている。
成功の要因と今後の展望
ミライースの成功は、日本の軽自動車規格という制約が生んだ「高効率・低コスト・高信頼性」の製品が、輸出先の「経済・税制・インフラ」という特有の課題と完璧に合致した結果と言える。円安がこの価格競争力をさらに後押ししている。
しかし、この成功は永続的ではない。パキスタンやスリランカにおける輸入規制の変更、為替の変動、そして現地生産車の品質向上などが、今後の人気を左右するリスクとなるだろう。
パキスタンやスリランカの中古車市場で、日本の軽自動車ダイハツ・ミライースが人気ランキング上位を占めている。なぜ、この小さな車が海を越えて支持されるのか。その理由は、現地の経済状況や税制、そして日本特有の環境で鍛え上げられた車両の特性にあった。





